小説を書くとする
僕は白が嫌いだ
白く染められたものは皆嫌いだ
光も嫌いだ
眩しいのも嫌いだ
なのに世の中の大部分は白い
そして光もある
ずっと……ずっと夜が続けばいいのに
僕はこの春から大学生というものをやっている
普通のどこにでもいるような大学生だ
特に変わった能力があるわけでもない、予知能力もないし、魔法なんて使えるわけもない、突然どこからか声が聞こえたりなんてあるわけないし、何故か女性にモテまくるはずもない。
そんなこんなだから、もちろんこの世界も普通そのもの、期待するだけ無駄な世の中。
僕は特別頭が良いわけでもないし、運動神経も中の下あたり。
自己紹介してるのに名前がまだだったようだ。僕の名前は……まぁ、覚える必要も無いだろうから、ハズキ、とだけ言っとこう。
「おーい!ハズキ、野球やんねー?1人足んなくてさー!」
ハズキと聞いて少なくともこの大学にはハズキは自分1人なはずだから、声のあった方に目を向ける。
そこにはいかにもスポーツマンらしい好青年がいた。彼は同学年でゼミがたまたま一緒の男子だ。
「うーん、野球はやったことなくてさ。それにこれから図書館で勉強するから。ゴメン!」
嘘ではない。野球は経験がないし、しかも図書館に行くというのは合っている。ただ、僕はやりたくはない。だったらそういえば言いのに、この歳になるとなにかと角を立てたくないのだ。後々面倒だから。
「りょーかい!でも、ハズキもたまには体動かそうぜ?」
「準備体操くらいならしてるよ。あと大学には駅から歩いてるから。」
「準備体操は運動じゃねぇって!笑。図書館で勉強頑張ってな!」
清々しいやつだな。僕は会釈の代わりに手をグッとあげて挨拶をして別れた。
「さて、と……」
僕は図書館につくと早速、日本史の棚に足を運ぶ。
僕の専攻は日本史。もともと日本の歴史が好きで、子供の頃から、日本歴史のマンガ、なる本を読み漁っていた。
今研究テーマにしているのは、戦国時代の武将について。って言っても大雑把に決めただけで今は論文にしがいのあるテーマを模索中。
「今日は安土桃山時代あたりの本を読みますかな……」
本棚に足を運ぶ、手前で急ブレーキ。女子がいる。背を向けて立ち去ろうとすると、
「あれ?ハズキくん?やっほー♪」
ギギギと振り向く。
「や、やぁ。アカネちゃ、さん。奇遇だね…。」
彼女の名前はアカネ。苗字ももちろんあるが、みんながアカネって呼ぶから僕もそう呼ぶようになった。以前は苗字でしか呼べなかったけど、ゼミが一緒になってから会う機会も増えて今に至る。
「うん。ハズキくんも図書館来てたんだ?」
「う、ん。論文のテーマを決めに…。」
真面目すぎだろ!
「凄いねー(笑)もう論文のテーマ決まってんだ?わたしなんかまだだよー(笑)」
「いやぁ…今のうちに決めとこうかな、なんて…」
僕は焦ってそんなことを口走った。そんな真面目な気持ちではなくもっと軽い気持ちだったはずだ。
「あ、アカネさんは…勉強しにきたの?」
「え?わたしは友達と待ち合わせしてるから時間潰すためにちょっと、ね(^-^)」
あー、あー、そりゃそーだよな。友達と待ち合わせですか。そのついでですか。僕もそう答えりゃ良かった。友達なんていないし、待ち合わせもしてないですが。。
「そっか。じゃあ、僕はこの本読みたかったから」
と、その場から離れたい一心で適当に選んだ1冊を手にした(お茶の真髄〜裏千家〜)
「随分渋い本を読むんだね…。」
「あ、あは、あはは。そう、今お茶に興味があってね!読むなら昔の歴史を知っとこう〜なんて……」
嘘だ。全然興味が無い。
「そう…じゃ、今度お茶について教えてね!じゃ頑張って〜!」
(なんてこった…今度会う時お茶教えなきゃいけない……!)
その後、ペラっとめくってみたがわからん専門用語だらけでした!そして彼女が去ったのを見計らって本を棚に戻した。(グッバイ利休…)
でもなんの収穫もなかったわけでもない。同じゼミの女子とはいえ、女の子と話した!ハズキはそれで頭が1杯だった。
ちょっとくらいお茶に関心持ってもいいかな、、とか思い出した始末だ。学校からの帰りにコンビニで、おーいお茶、を購入した。
今は秋の夜、
(秋の夜長って言うくらいだし、やっぱ夜はいいよなぁ〜)
「…あー、暗くなった。やっぱり暗いと落ち着くね~。」
そう言いながら、駅の改札を抜けてホームで電車を待っていると
「あれ~?ハズキくん!やっほ!」
声の主の方を向くと
「あ、アカネさん…!?」
(なぜここにアカネさんが…!??)
「ハズキくんも高杉線なんだ?」
「あ、そ、そうだよ?アカネさん学校から駅まで帰る時見なかったけど…」
「あぁ、わたしはバスだから(^-^)」
(そういやバスも運行してんだった)
「僕、は健康のために歩いてんだけど…」
また嘘、金がないから。
「へぇ~(笑)ハズキくん立派だねぇ。わたしも見習おうかなぁ〜…」
「あ、アカネさんは、その、女性だから夜の道は危ないからバスの方がいいよ?」
(よっしゃあ!レディへの気遣いナイスプレー)
とかなんとか思ったりしたが、その時にちょうど電車がやってきた。
ごー!ガタンガタンゴトン!
「えっ!?ハズキくん今なんか言った?」
瞬殺である。
「…いや、アカネさんは必要ないよ。十分健康そうだし…。」
「あはは!よく言われる!」
どんまい僕。
そのまま電車に乗る。二人。たまたま空いていた席に座る。沈黙。。
(なにか話題を考えろーフルパワー!)
と、
「ハズキくんってさ、立派だよね。」
「え?」
「だって、図書館でもう卒論のために勉強してるしさ、バスを使わないで歩いて通学するしさ」
「あー、うん…」
再び沈黙
「…わたし見てたんだ。」
「…え、何を?」
「学食でさ、ご飯食べてたでしょ?その時カップル2人組が場所探してて、ハズキくんスっと立って席を譲ってあげたじゃない?」
(あー、あれか…見られてたのか……。実はリア充の空気圧に耐えられないからその場から離れようと思っただけなんだ…)
「わたしそんなに気が回らないから(笑)ハズキくん立派だー!って思った!」
そして彼女はニコっと笑顔で笑いかけた。
「あ、僕は…ただ…邪魔かな、って思ったから…」
すると彼女は
「そんなことないよ!ハズキくんが席を譲ったからカップルは座れたんだよ、カップルの中ではハズキくんは"優しい男子"にイメージ変わったんよ!」
そしてまた彼女はニコっと満面の笑みを浮かべた。